Main Menu

みんなで豊かになるということ

国際非政府組織であるNGOオックスファムが今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に合わせて公表した世界の富の偏在に関する報告書によると、世界の富豪上位26人が独占する資産は約1兆3700億ドル(約150兆円)に上り、世界人口の半数に当たる貧困層38億人が持つ資産とほぼ同額になるということです。

 因みに、オックスファムはこうした比較について「トップ何人」という数字にこだわり続けていて、昨年は43人だったものが今年は26人と少なくなったとことを改めて強調しています。

 この26人は経済誌「フォーブス」が発表している2018年の世界長者番付によるもので、国別にみると米国15人、中国6人、フランス2人、スペイン、メキシコ、インド各1人となっています。因みに日本人ではソフトバンクグループの孫正義氏が最高で39位なのでこの中は入ってきていません。

 例えば、アマゾンの創業者で世界で一番金持ちと言われるジェフ・ベゾス氏の資産は、この1年で1120億円増加して約12兆円とされており、そのたった1%でも、人口約1億500万人のエチオピアの保健予算の全費用を賄えるということです。

 世界的に進むこうした所得格差の拡大と富の偏在を背景に、6月11日の日経新聞のコラム「大機小機」は『新しい時代の富の偏在』と題する興味深い論考記事を掲載しています。 

 近年、労働分配率の低下傾向が世界的に顕著になりつつありますが、その大きな原因の1つには労働力を代替する新しい技術の進歩があると記事は説明しています。

 近年のイノベーションは、これまで以上に労働力を代替する技術に偏る傾向が強い。その結果、新技術が成長を促進する場合でも賃金は伸び悩み、成長の果実がすべての人々に行き渡る「トリクルダウン」理論が働きにくくなってきているということです。

 さらに近年の研究では、労働分配率以上に資本分配率の低下が著しいことが明らかにされつつある記事は指摘しています。利子率や配当性向が傾向的に低下した結果、かつては勝者と考えられていた資本家への分配も大きく下落しているということです。

 こうした状況が生まれた背景には、一部の新興企業が急成長しそれを担う「スーパースター」に、労働者にも資本家にも分配されない巨額の超過利潤が発生していることがあると記事はしています。そしてその結果、成長の果実が内部留保や経営者・創業者への巨額報酬という形で(ごく一握りの人々に)偏在する形が生まれているというのが現在の状況に対する記事の認識です。

 経済学では伝統的に、成長が生み出す新たな価値が労働者と資本家のいずれかにバランスよく分配され、経済の好循環が生まれると考えられてきたと記事は言います。しかし、近年は超過利潤から生まれた余剰資金が労働者ばかりか資本家にも十分に分配されないのが実情で、実際、巨額の利益がごく一部の大富豪に滞留する現象が多くの国々で観察されているということです。

 こうした中、これから先も成長の果実がごく一握りの人々によってのみ享受され(時流に乗り遅れた)大半の人々に広く行き渡らなければ、本来は「満ち足りた世界」であるはずの先進経済において多くの社会的な弱者が生まれてしまうというのが記事の指摘するところです。

 巨額の超過利潤を手にした企業にとっては、(もちろん)自らの利益の向上に資することのない分配を積極的に行うインセンティブが生まれる余地はないでしょう。

 しかし、経済のスーパースターたちがとるこのような近視眼的な行動が、労働者や資本家の消費を低迷させることで、長い目で見れば経済社会の持続的な発展に逆効果となりうるのもまた必定です。

 実際、過剰貯蓄(消費不足)の大きな原因は所得格差の拡大にあるとも言われています。富裕層の消費性向は中・所得層に比べ低くなることから、近年のように富裕層に富が集中すれば消費需要が停滞するのは自明とも言えます。

 こうしたことから、各国政府も、GAFAなど新興巨大企業を規制しようとする動きにようやく乗り出しているようです。

 みんなで豊かになることが、結果的に皆の利益につながっていく。そうした視点から極端な富の偏在を是正し、できるだけ多くの人々が成長の恩恵を享受できるようにすることが、新技術が成長の源泉となる時代で真の豊かさを実現するために重要だとする記事の指摘を、私も改めて重く受け止めたところです。



« (Previous News)



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です