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マイナンバーの行方

 2015年(平成27年)10月から運用が始まったマイナンバー制度。(報道によれば)システムの開発コストは2700億円以上とされ、維持費だけでも年間300億円程度が費やされていると言われるこのシステムですが、その利用はなかなか思うように進んでいないのが現実のようです。

 総務省によると、昨年12月現在のマイナンバーカードの交付枚数は全国で約1560万枚。人口に対する交付率は12.2%にとどまっているということです。

 内閣府が18年10月に行った世論調査では、マイナンバーカードを「取得した(する)」と回答した人の割合は44%に過ぎず、「取得していないし、今後も取得する予定はない」と答えた人は過半の53%に達していたとされています。

 因みに、調査ではマイナンバーカードを取得しない理由は「取得する必要性が感じられないから」(57.6%)との回答が最多を占めており、「めんどいし、なくても別に問題ないじゃん」という国民の気分が透けて見えます。

 実際、出産育児一時金や育休、児童手当の申請のほか、介護や年金などの給付手続き 確定申告を自分でする場合、金融機関に口座を作る際などにはマイナンバーの提示を求められる場合が多いようですが、それでもそれ自体が義務ではありません。

 なかなかメリットが分かりにくい割りに市役所や区役所などでのカード作成の手続きは面倒くさく、暗証番号を設定したり自分で画面を操作しなければならなかったりと、カードの取得には高齢者には負担となる作業も伴います。

 AIやIoTの一般化などが予想される「令和」のデジタル新時代を控え、そろそろ本気を出して普及を図らなければならない(はずの)マイナンバー制度について、5月3日の日経新聞のコラム「経済教室」では、中央大学教授の石井夏生利(いしい・かおり)氏が「マイナンバー 制度の役割伝える努力を」と題する論考を寄せています。

 この論考において石井氏は、マイナンバー制度の主な効果は、社会保障給付の申請や届け出など行政手続き時の国民負担軽減、行政側の事務処理の迅速化によるコスト削減、きめ細かな社会保障給付にあると説明しています。

 2018年10月現在で、添付書類を削減できた行政手続きは既に1221にのぼっている。それでも多くの国民が必要性を感じていないのは、制度が果たす役割が国民に十分に伝わっていないからだというのが氏の指摘するところです。

 今、日本は未曽有の少子高齢化時代を迎えている。2015年には高齢化率(全人口に占める65歳以上の割合)が25%を上回り、2060年にはそれが40%近くに達する見通しが示される中、社会保障制度を含む行政サービスの質を低下させないためには、その効率化が欠かせないと氏は言います。

 このため、政府はAI(人工知能)やホワイトカラーの業務を自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の利活用など様々な施策を検討しているが、マイナンバー制度は、そうした各施策の中でも効率的な行政サービスの基盤となるものだというのが石井氏の認識です。

 氏によれば、確かにマイナンバー制度の効果は(すぐには)目に見える形で国民に還元されないかもしれないということです。

 しかし、基盤制度であればこそ長期的視点に立ってその効果を見極めるべきである。また、いったん制度が設けられた以上は、できる限り有効活用できる施策を行う方が賢明だと氏はこの論考で主張しています。

 そういう意味で言えば、今年3月15日に国会に提出された「デジタル手続法案」は、国外転出者による個人番号カードの活用、通知カードの廃止と個人番号カードへの移行拡大、マイナンバーを利用する事務や情報連携対象の拡大などを実現する、制度を次のステップに導く内容となっていると氏はこの論考に記しています。

 同日、国会に(セットで)提出された「戸籍法改正案」では、親子関係や婚姻関係の存否を確認するためにマイナンバー法に基づき戸籍関係情報の作成・提供を行うこととしている。さらに2月15日に提出された医療・介護関連法改正案では、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認」の本格運用が目指されているということです。

 例えば、マイナンバーカードは免許証などを使わない者にとっては身分証明の便利な手段となると氏は言います。

 免許証を持っている者でも、マイナンバーカードを使えば、免許更新時などに必要な住民票をコンビニエンスストアで簡単に取得できる。このような利便性は日常生活の中でメリットを実感できる機会が拡大すれば、さらに普及が進みメリット自体も拡大していくということです。

 確かに今のマイナンバー制度は、手続きが極めて面倒だしセキュリティの部分でもまだまだ不安が残ると感じる向きも多いでしょう。しかし、(石井氏も指摘するように)一旦、高額な費用を投じて作ってしまった以上、できるだけ上手に活用することが費用対効果を上げる唯一の道なのかもしれません。

 勿論、マイナンバーカードの目先の利便性を強調するばかりでは、国民の理解を得るための道のりは険しいと言っていいでしょう。






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